桃源郷の歩き方 東莞常平編第3話 ～衝撃の花街～
世界の桃源郷 東莞常平
リンダに手を引かれ、信彦と貴博は中国式カラオケ（KTV）内のロビーのような広い眩い空間に到着した。
貴博「Wow！！！」
信彦「なんだこれは！！！」
2人は花街の会場に到着するやいなや、暫く立ちすくみ言葉を失った。
既に冷静さを失いかけていたため正確なカウントではないが、美女は恐らく300人はいたと推定される。長辺が100～150ｍ位の広い空間に、その日出勤の美女達が、中央に人間通路を設け両側に勢揃いして並んでいる。ドレス姿の華やかな装いの美女もいれば、デニム姿のラフな装いの美女もいる。美しい花が咲き乱れる、まさに「花街 (Huājiē)」である。
（写真はイメージです）
リンダ「私の言ったこと本当だったでしょ？可愛い子が選り取り見取りでしょ？」
信彦「リンダには及ばないけど、確かに本当だね」
リンダが美人であることは事実であり、「目移りなどするわけが無い」と1分前まで考えていた2人は、花街のあまりのレベルの高さ故、既に「想定外の」目移りモードに入っていた。
はっきり言って、レベルは高い。しかし深呼吸をして冷静に眺めると、全員のレベルが高いわけではないことが判明する。「レベルの高い美女も存在している」というのが正確な表現である。中には、頬に赤丸をつけた「漫画から飛び出してきたような」キャラの美女や、不自然に力強い眉毛の美女も並んでおり、異国情緒を改めて感じさせる。
一言で表現すれば、「玉石混交」である。レベルの高い美女は、メイクの影響もあると思われるが、日本の女優やモデルよりも格段に美しい（注：但し個人的な嗜好による）。そんな美女が、5人に1人位は存在している。これも嗜好は様々ではあろうが、「普通に美しい」美女を含めれば5人に2人は「美しい」という分類で問題無い。仮に全体で300人とすれば、120人（40%）は十分に美しい。これは既に、目移りと妄想が1ギガヘルツのクロック周波数状態である。
残り180人のうち、120人（300人の40％）は可もなく不可もなくといったところである。見ようによっては美しかったりもして、顧客の嗜好により需要はあると推測される。そして残り60人（300人の20％）は、本日の売れ残り確定と思わせる集団である「頬赤丸」や「不自然強眉毛」達だ。「頬赤丸」も、ラフなデニムにすれば良いのに、ドレスを着るから不自然に赤い頬が際立ってしまっている。しかし、堂々と花街に並んでいる勇気には敬意を表したい。
（写真はイメージです）
そして、明らかに美女の数のほうが、顧客である男子の数よりも多い。感覚値だが、5：2位である。美女（売れ残り確定組を含む）が300人、顧客が120人、ママさんや他のスタッフも含めれば500人近い人数が集まり、この中国式カラオケ（KTV)は異様な熱気の空間と化している。デビュー戦の信彦と貴博の2人は、若干怯んでしまっている。
「人生は何事も経験」 をモットーにする信彦は、何事も新しいことを経験することが好きであるが、この「花街」は、その衝撃度という意味では人生で3本の指が入る位の経験である。ついでに言うと、好きな言葉は「人生は何事も経験」「適正価格を見極めよ」「据え膳食わぬは男の恥」の3つである。
信彦「リンダ、どう見ても女の子の方が圧倒的に多いよね。需給が釣り合ってないよね」
リンダ「お客さんの中には、遅れてくる人もいるから」
信彦「花街に来ないお客さんなんているの？これを見逃すのは、相当もったいないよね」
男子からすれば「選り取り見取り」状態で、過度な買い手市場であり、何の問題も無いわけであるが。
信彦の思考癖だが、このような時に「逆の立場ならどうか？」と常に考える。美女（頬赤丸等も含む）からすれば、給与保証も何もない完全出来高制の報酬ゆえに、顧客に選択されなければその日の収入はゼロである。
しかも、出勤前に化粧やヘアメイクで200～300元ほどの支出が必要な模様で、顧客が付かなければその日の収支は赤字となる。つまり、化粧やヘアメイクの投資回収のためにも、この歪な買い手市場で必ず顧客に選ばれねばならないのである。この華やかな花街は、美女たちにとっては熾烈な戦場でもある。
美女たちは、信彦と貴博に熱い視線を送ってくる。中には、乳房を揺らすような仕草で誘ってくる巨乳系の美女もいるが、巨乳を好まない信彦と貴博には全く響かない不適切な勧誘行為である。
リンダ「この子はどう？先週湖南省から出てきたばかりの子よ。20歳（这个女孩怎么样？ 她上星期刚从湖南出来，今年20岁 Zhège nǚhái zěnme yàng? Tā shàng xīngqí gāng cóng húnán chūlái, jīnnián 20 suì）」
信彦「なるほど、可愛いね。でも、もう少し全体を見てみたいな」
リンダ「2人はどういうタイプが良いの？（你们喜欢什么类型的？Nǐmen xǐhuān shénme lèixíng de) 」
信彦「僕は、細身（瘦的 Shòu de)で、肌が白くて（皮肤白的 Pífū bái de)きれいで、目がきれいで凛とした、それでいて優しい女性が良いな。リンダみたいな」
贅沢過ぎると思われるこのような要求を出しても、スペックが合致する美女が見つかる可能性は十分にありそうな、そんな中国式カラオケ（KTV)である。妥協はせず、これくらい厳選すべき空気感である。貴博の好きなタイプの詳細は不明だが、既に本気のスクリーニング・モードに入っている模様で、話しかけられる雰囲気ではない。
（写真はイメージです）
リンダ「この子も先週田舎から出てきたばかりの女の子。四川省出身の22歳よ。」
信彦「おお、四川美人か。良いね！」
四川省の女性は、盆地で湿度が高く、辛い物を食するためか、色白で透き通るような肌の美人が多く、四川美人と称される。最も有名な四川美人は楊貴妃である。目の前の彼女は、身長が170cmほどのスラっとしたスタイルで、黒いワンピースを完璧に着こなしている。そして何より、凛とした目力を有している。そんな彼女が、信彦に向かってクールに微笑んだ。
信彦「わかった、彼女にするよ」
花街開始から10分も経過しないうちに四川美人の微笑の軍門に下った信彦は、リンダにその旨伝えた。リンダから指示を受けた四川美人は、信彦にウインクを投げて花街から退場していった。
リンダ「1人で良いの？あと1人でも、2人でも、3人でも、何人選んでも良いのよ」
信彦「マジで？」
リンダ「たくさんいる方が楽しいわよ」
信彦「わかった。他にも良さげな子がいたら選ぶよ」
信彦は、基本美女は1人で十分と考えており、2人以上選ぶことは先ほどの四川美人に申し訳ないと思考していた。しかし、折角の機会であり、貴博がまだ選択し終えていなかったため、引続き花街のリング上にとどまり続けることを決意した。
貴博は引き続き熱心に物色中である。一般的に意思決定は早いほうの貴博であるが、今日ここ中国式カラオケ（KTV)では優柔不断君と化してしまったようだ。
（写真はイメージです）
気の利くリンダの「この子は優しいよ、って彼に伝えてあげて。重慶出身の21歳」とのメッセージをそのまま貴博に伝えた。
貴博「いや、ちょっと違うんだよね。それなら、ほら、あそこのあの白いドレスの子のほうが可愛いし」
信彦「確かに、あの子はレベル高いね」
貴博「でも、この子も捨てがたいんだよな～」
と、貴博は信彦とリンダを連れて、花柄のドレスを着た美女の前に立った。
リンダ「彼女は湖北省出身で20歳。明るくて楽しい子よ。でも、いい子はたくさんいるから、ゆっくり選んでね」
と、リンダは急かす雰囲気が全く無い。
貴博が鼻の下を伸ばして目移りしている間に、明らかに美女が減り始めた。場慣れしている中国人や香港人のライバル客達が、どんどん美女を選んでいくためだ。キープという制度は不存在である。貴博はやや焦り始めた。
（写真はイメージです）
信彦「どれにするんだよ！早く決めようよ（笑）！」
貴博「だいぶ絞れてきたんだけど、あの2人のどちらがいいか」
信彦「じゃあ、2人とも選んでしまえば？」
と信彦が発言した瞬間、片方の美女が香港人らしき男に連れ去られた。ほんの一瞬のスキである。やはり平和ボケの日本人には、戦場という意識が欠如しているのであろうか。
信彦「まあ、ゆっくり選べば良いよ」
先に選択しミッションを終えた優越感と安堵感により、信彦が余裕をもって貴博にコメントした瞬間、貴博は先ほどの花柄ドレスの美女を選択した。
こうして、2人の中国式カラオケ（KTV）の記念すべきデビュー戦の対戦相手が決定した。
第４話に続く
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