桃源郷の歩き方 東莞常平編第19話

桃源郷の歩き方 東莞常平編第19話 ~天使のクロージング~

世界の桃源郷 東莞常平

信彦「やっぱり、出勤しないとダメなの?(你要上班吗?Nǐ yào shàngbān ma?)」

小玲「したくないけど、お金が無いから(没钱 Méi qián)、出勤しないと仕方ない(没办法 Méi bànfǎ)。実家にもお金を送らないといけないし」

信彦「そうなんだ。いろいろ抱えて大変なんだね」

思わず「聞かなくても良い質問」をしてしまったのだが、小玲はこれを逃さず、すかさず提案を持ち掛けてきた。

小玲「あなたが、私を養ってくれるというのはどう?(你养我,好不好 Nǐ yǎng wǒ, hǎobù hǎo)」

信彦「養う?」

小玲「うん。月々の生活費を少しだけくれたら、私はKTVに出勤しなくて済む。本当に、出勤したくない」

なかなか「どストレート」な提案だが、小玲は涼し気でありつつも、オモチャやお菓子を強請る小さな子供のように屈託の無い笑顔で持ち掛けてくる。ある意味極めてビジネスライクな話なのだが、そう感じさせないのは、小玲の生まれ持っての才能なのか、信彦の脳味噌が溶け始めているのか、どちらかであろう。

信彦「なるほどね」

小玲「私は質素な人間だから、そんなに沢山お金はいらない。自分で仕事もするし」

信彦「仕事?」

小玲「もちろんKTVでは働かないけど、常平の近くで知り合いのお姐さんが会社を経営しているので、昼間その手伝いをするの」

信彦「そうなんだ。それによって小玲がKTVに出勤しなくて済むのなら、僕も嬉しいかな」

ここで小玲はしきりにキス攻撃をしかけてくる。彼女にとって、ここは契約クロージングの重要な局面であり、少し気が急いている感じが見受けられるのも可愛らしいところである。

そして何より、この話題の「トス」を上げたのは他でもない信彦なのであり、信彦もこのような話の展開は期待していたものなのである。

信彦「なるほどね。で、養うのには幾ら必要なの?」

小玲「月に1万人民元(当時のレートで12万円程度)はダメ?それだけあれば、仕事の収入も少しだけどあるから、家賃の2,000元や実家への仕送りをしても、十分に生活できるから」

信彦「なんだ、それ位なら、全然構わないよ。マンションと車を買わされて、クレジットカードを渡さないといけないのかと思ったよ」

小玲「そんな女の子もいるみたいだけど、私はそんなのは要らない」

てっきり3万人民元位(当時のレートで36万円程度)かと想像していたのだが、意外に安い金額だったので、詳しいTerms & Conditionsを聞く前にあっさりと商談成立してしまった。

信彦「それで、僕が常平に来たら、いつでも会ってくれるのかな?」

小玲「もちろんよ。あなたが常平に来てくれた時は、いつでも会う。その時は仕事もしないし、別の用事も入れない。24時間ずっと一緒にいる」

信彦「本当?それは嬉しいな」

素直に嬉しいのが90%、一方で、「常平まで来ても、KTVやサウナには行けない」ということでもあり、この複雑な心境が10%、といったところである。

小玲「毎月常平には来れるんでしょ?」

信彦「毎月定期的というわけではないけど、香港には平均すると月に1~2回は来るから、その時に常平に寄れると思う」

小玲「もっと頻繁に来て欲しいな。なんなら、常平に住むのはどう?」

信彦「ははは」

小玲「常平じゃなくても、深圳で会っても良いよ。あなたは特別な人だから、会いに行く。香港に行っても良いけど、ビザが要るから頻繁には行けないかな」

やはり契約クロージングの重要な局面で、少し気が急いているようである。「特別な人だから」「あなただけ特別」などという言葉ほど胡散臭いものは無いのだが、今日はそういう野暮な思考回路は封鎖することにしよう。

そして何より、「欲しくもないものの押し売り」を受けているわけでも何でも無い。月に1~2回香港に来て、その足で常平を訪れて小玲に会えば良いわけで、月1万元程度で「天使の癒し」を享受できるなら、これを断る理由などどこにもない。

ちなみに、「1か月に2日しか来れなければ、1日単価5,000元か。それなら、月極契約にしない方が割安だよな」などという計算をするのは野暮である。

小玲となかなか刺激的な話をしていると、完全に目が冴えてきた。

信彦「KTVって、一般的にはどれくらい出勤するものなの?」

小玲「女の子によって違うみたいだけど、週に3日くらいかな。私も常平に来たばかりだから、詳しくはないけど」

信彦「そうすると、1回2,000人民元の収入として、週に6,000人民元。月にだいたい24,000人民元位稼げるということだよね」

小玲「そうね。チップを沢山くれるお客さんもいるらしいから、もっと稼ぐ子もいるみたいだけど」

信彦「昼間の仕事で幾ら稼げるかは知らないけど、小玲の収入は大幅に減るよね。それで大丈夫なの?」

小玲「昼間の仕事は、成績が良ければ沢山もらえるみたいだけど、多分3,000~5,000人民元位かな。頑張れば10,000人民元位稼げる可能性もあるらしいけど」

信彦「セールスの仕事?」

小玲「うん。でもね、収入が多くても、毎日KTVに出勤して見知らぬ人とお酒を飲んで夜一緒に寝るのはとても気が重い」

まあ、それはその通りだろうと思う。信彦自身も、昨日初めて出会った「見知らぬ人」ではあるのだが。

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小玲「昨日も言ったかも知れないけど、怖いお客さんもいるみたいで、そういうのを想像すると、怖くて、泣けてくる。常平に出てきた最初の夜は泣いちゃった」

こういうことを面と向かって言われると、大変弱い信彦である。もう完全に後には引けなくなってしまった。実際、「ウイスキーをストレートで一気飲みさせられて死亡した女の子」や「白酒の瓶で殴られて大流血した女の子」のニュースを観たこともある。

というわけで、お互いの利害が一致することも確認でき、ここはメデたく商談成立となった。正直、約束がどの程度守られるのかは不明だが、逆に、こちらも何時でも契約破棄も出来る気軽なものであり、常平での自由行動が制限されることを除く特段大きなリスクも見当たらない。

信彦「じゃあ、決まりだね」

小玲「本当に嬉しい」

ここで伝家の宝刀の「天使の舌絡め」が繰り出された。そして乳首も舐めてくれる。やはりここは桃源郷(シャングリラ)だ。

何だかんだで、付随した話題も含め、30分位は話し込んだ。

信彦「流石に眠くなってきたから、寝ようか」

小玲「うん。疲れたでしょ。でも、私は全然眠くないから、もう少しだけテレビを見てても良い?」

信彦「良いよ。じゃあ、お休み」

小玲が優しくキスをしてくれた。

ベッドに枕を積んで高くしてテレビを観ている美しき小玲を眺めながら、5分もかからずに信彦は眠りに落ちていった。

第20話に続く

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